当スタジオはクラシック系の方が多いため、グランドピアノの調律を442Hzで固定しております。よくレコーディングサービスでお問い合わせいただくのが、440Hzに調律できますか?というお問い合わせ。残念ながら、調律が安定しなくなるので、442Hz以外は承っていません。そこで・・・、レコーディングされたグランドピアノのデータを、442Hzから440Hzにデジタル変換すると音がどのように聞こえるのか(変わるのか)、スタジオで使用しているソフトを駆使して、サンプルを制作してみました。
ピッチ補正アルゴリズムを比較
まずはソースサンプルです。442Hzでレコーディングした、まったく処理のしていないピアノデータです。16bit変換時、ディザーのみ使用しています。このデータを使って複数のメーカー、複数のアルゴリズムで変換後の音質をチェックしていきます。
以下、440Hzに変換した音源です。2Hzの違いですと、大体7.85 centくらいの違いなので、cent単位で指定できるものは-8 centにしています。
iZotope RX10 Advanced – Time & Pitch – Radius (best quality)
まずはiZotopeのRadius。昔から有名なアルゴリズムです。centで指定できないので、semitone -0.1で作業しました。かなり自然に聞こえます。
Acon Digital – Acoustica Premium Edition – Transpose
割と新しめのメーカーAcon Digital。iZotope RXと似たような製品ですが、MA作業の時に重宝しています。これも良い感じ。
Avid Pro Tools – PitchⅡ
Avid Pro Toolsに標準搭載されているPitch Ⅱ。設定方法が悪いのか多少劣化。
PreSonus Studio One 6 – チューン
PreSonus Studio One 6に標準搭載されているチューン。多少劣化。
Celemony Melodyne Editor
CelemonyのMelodyne Editor。世界一有名なピッチ補正ソフトです。アルゴリズムをポリフォニックサステインにしています。数値で指定できないので、拡大して目視で作業しました。基本単旋律を補正するときに使うものなので、劣化ありでちょっと違和感ありますね。
Waves SoundShifter
WavesのSoundShifter。古いプラグインですが、思ったより優秀な感じ。
Steinberg Nuendo 12 – MPEX Poly Musical
スタジオで主に使用している、Steinberg Nuendoに搭載されている、MPEX。こちらも古くから有名なアルゴリズム。
Steinberg Nuendo 12 – élastique Pro Pitch
こちらもNuendoに搭載されている、élastique Proアルゴリズムです。これも優秀。
さて、気に入ったものはありましたか?設定を細かく詰められていないものもありますので、ご容赦ください。440Hzへの変換で、音質や2Hzという音高の差をそもそも認識できたでしょうか・・・?もし全然変わらないというご意見でしたら、おそらくこれらのソフトは非常に優秀と言えるでしょう。しかし、本来やらなくていい作業をして敢えて音を悪くする、というのはエンジニアは好まないのですね。ですので、基本的には442Hzでレコーディングをしたピアノは、周りの楽器を442Hzに合わせる、という風にしたほうが良いかと思います。どうしてもほかの楽器がレコーディング済で、という場合はこういうことも出来ますというご紹介でした。
ちょっと小難しい話ですが、インハーモニシティというのがあって、ピアノの調律はストレッチチューニングをしているので、ほかの楽器に合わせるという意味で442Hzのままでもあまり気にする必要はないのかもしれません・・・。耳で聞いておかしかったらだめですが。このあたりの話はまた今度。